U29限定 演劇の地域性について考える観劇&交流会 レポート

札幌舞台芸術制作協議会では、2023年11月〜2024年1月、ラボチと共催で「札幌演劇いまとこれから」と題した企画を実施しました。29歳以下の演劇人を対象に、作品の観劇と演出家との交流会を行った企画のレポートです。

2023年11月、札幌を拠点に演劇活動を行う29歳以下の演劇人たちを対象に、札幌公演を行った大阪のオパンポン創造社、宮崎の劇団こふく劇場の2団体の作品を観劇し、演出家と交流する機会を設けました。作品の感想から各地の演劇環境についてなど、短い時間の中でしたが活発な意見交換が行われました。

オパンポン創造社「幸演会」

脚本・演出の野村有志さんの「自叙伝フィクション」と銘打って上演された本作は、創作を続けていくこと、集団を続けていくことの苦悩が描かれていて、演劇の現場に身を置く若者たちにとっても共感できる内容が多かったのではないかと思います。

大阪と札幌の演劇創造環境の違い、経済・芸能界との距離、劇団の持つ宗教的な性質についてのほか、創作そのものへの苦悩といった点についての質問が中心となりました。

野村有志さん

20代は就職などで環境が変わり、演劇を続けるか否かを悩むことも多い世代。芝居をするか仕事をするかの二択ではなく、新たな演劇の続け方のロールモデルを作りたいと考えている参加者に、野村さんは「間違いだとも正解だとも思わない、わからない。でもやりたいことができるのが本当の幸せだし、ないものねだりをしていたらキリがない」と答えた上で、自身が公演で食べていく道を模索し現在に至る過程を明かします。

大阪でも札幌と同様、生業とする仕事を持ちながら演劇活動を行うことが一般的な中、公演だけで食べていく道を模索し、劇場費の自己負担がない演劇祭への参加を続け評判を得ます。そこから吉本興業への所属に繋がり、テレビドラマのシナリオ執筆などの仕事を得て、少しづつ生活できるようになっていったと言います。また、コロナ禍では映画を製作し、海外の映画賞にも積極的に作品を出品し、多数の賞を受賞しています。

札幌には、大きな仕事や大幅な集客増につながる演劇祭や演劇賞はほとんどなく、映像の仕事を受託できる俳優も稀な現状です。「例えばネットにプラットフォームを持つ。テレビもライブじゃなければ見てもらえない時代、やり方次第でもう少し舞台が注目されていくのではないか。時代の分岐点に来ている。自分を商品として考え、買ってもらえる人がいるならどうすべきか考えたい」と野村さん。マイナス面ばかりに目が行きがちですが、やり方次第ではこの環境だからできる「鉱脈」のようなものが見つけられることもあるかもしれません。「行動する人に対してそれを間違いだという人の意見は無視でいい」という言葉に勇気付けられる思いでした。

また、今作はオパンポン創造社20周年記念公演でもありました。自身も脚本を書いているという参加者からの「自分の中で表現したいこと、持ってる感情を書けたらいいと思うが、何本も書いてるうちに自分の中から出て来なくなる気がする。どうして20年書き続けられるのか?」という問いには、「書けないけど書く、それは覚悟の違い」ときっぱり。「実際は書けないけど書く。その違いは無茶苦茶大きい。その差は歳を取ればとるほど大きくなる。そんな苦しい思いして楽しいのかって思うと思うんですけど、好きなんでしょうね。無茶苦茶しんどいことを乗り越えた人しか見えない景色って多分あると思うんで」。

創作をアイデンティティとし、持てる全てを演劇に注ぎ込むように続けていく野村さんのスタイルは、札幌では想像しづらいものだったかもしれません。芸能や経済との距離も大阪に比べるとずいぶん遠いです。その中でも今回、野村さんが赤裸々に語ってくれた中には、共感できるだけでなく、背中を押されるような言葉も多かったように感じています。

DATA

2023年11月21日(火)終演後に開催

登壇:野村有志(オパンポン創造社) 参加者:12名
コーディネーター:佐久間泉真(d-SAP/弦巻楽団)


劇団こふく劇場「ロマンス」

同作は独特の語りと身体表現で市井の人々の暮らしや人生を描いた物語で、2023年9月〜2024年2月にかけて全国9ヶ所を巡演しました。交流会には、作・演出の永山さんのほか、20代の俳優、有村香澄さんと池田孝彰さんにもご参加いただきました。

まずは作品について、劇中に漂う湿度や方言についての感想や質問がありました。方言については、「戦略的に使っている」と永山さんは言います。台本は標準語で書き、イントネーションを変える。セリフだけでなく、舞台上で身体が発する音ーーため息や足音も音楽として聞かせていく中で、意味を超えたものとして方言を戦略的に使うようになっていったそう。

すり足での移動や地の文のを複数人でしゃべるなどの演出が普遍的なものにしているという参加者からの指摘に、「いちばん手を伸ばしたいのが、普遍性で、人がどう生きるか、どう生きているか。今生きている人だけではなくて、かつて生きていた人たちがいて私たちが生きてるという時間を与えられてまた消えていく。この生きている時間というのはなんだろうなっていうことの普遍性、根源的なことに手を伸ばしたい」と話します。現在のような様式に至るには、宮崎で実施してきた障がいを持った方々との作品づくりがヒントになりました。障がいという“不条理”を背負って演じる俳優たちが舞台上で見せる“美しさ”。メトロノームに合わせたテンポでセリフを発し、すり足などで身体に負荷をかけることで、はみ出さざるを得ないものが見えてくる、そこには俳優が日常をどう過ごしているかということも問われてきます。

「ロマンス」はまた、劇団でしか作れない作品という声もありました。これも最近の札幌ではあまり見ることができないように思います。永山さんは「私は劇団主義者。三股町でやっていく中で、一つ一つを積み重ねて共に味わいながら共通言語を獲得していく。劇団そのものが作品であるという気もするんです。かつていてくれた人たち、ともに悩んで試行錯誤して辛い思いをしてくれた人たちがいて、新しい若い人たちがいて、今日この作品を上演してそれを見てもらえて、この時間も含めてそれは劇団という作品と感じている」。

そして、参加者からの「共通言語がうまく生み出せなくて四苦八苦している。自分たちらしさを考えた時に何から対話を始めたらいいのか」という悩みに対し、「お客様との関係」を挙げられました。自分らしさを教えてくれるのは他者でしかなく、劇団の中だけで追求していくのは難しい。劇団こふく劇場は拠点である宮崎県三股町で20年にわたり子供向けWSを続けています。子供たちが大きくなり、さらにその子供たちも劇場へやってきます。そうした循環の中で、客席にいる町の人たちに恥ずかしくない芝居を作りたいという思いを持つようになり、町の人たちとの時間によって活動が築かれていったと言います。いきなりたくさんの集客を目指すような、お客様を数で考えるやり方のではなく、一人一人と向き合っていくこと、とアドバイスされました。

札幌にはない作風の、かつ正反対な方向性カンパニーとの交流から、札幌で演劇を続けていくための何が参加いただいた皆様の心に残っていれば幸いです。

DATA

2023年11月25日(土)公演終了後に開催

登壇:永山智行、有村香澄、池田孝彰  参加者:14名

コーディネーター:三瓶竜大(清水企画/ポケット企画)

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