わたくし的 演劇チラシ制作の考え方

小島達子(グラフィックデザイナー/演劇コーディネーター)
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私が演劇のチラシをデザイナーとして作り始めたのは1998年でした。
25年前になります。当時所属していた劇団のデザイナーが辞めてしまったので担当することになったのですが、デザイナーとしてもまだ駆け出しだったので、最初は右も左もわからず、といった感じでした。

最初は前任のデザイナーの方が残していってくれた過去のチラシイメージがあり、劇団のカラーがはっきりしていたため、ゼロからという訳ではなく、そこに沿って制作することができました。作るにつれ、次はこうしたい!と自分の主張が生まれてきた感じです。

しかし、劇団のメンバーが入れ替わり、観客数がうなぎのぼりに増えていく中、チラシデザインに求められるものも段々と変わって行きました。

雰囲気重視で、イラストや文字組みがメインでデザインしてきたものから、もっと具体的にキャストの写真などを入れるようになり、その中でもチケット売れる役者を前面に出す、など変化していきました。

時代の流れ、演劇業界の流れ、劇団自体の変化、客層の変化、さまざまなことの変化と共に求められるチラシの様相は変わって行くものです。

一言で演劇チラシ、と言っても様々な捉え方があります。

一時期、自分のいる劇団で、ザ・演劇!といったチラシでは演劇を観たことのない方に響きにくいのでは・・・という話になり、敢えて演劇的ではない(パーティーやライブ?のような)チラシやDMを作っていた時期もありました。
ですがここではあくまで、ザ・演劇!のチラシを作ってきた経験からお話しします。
チラシの考え方、作り方、デザインのコツなどを一気に解説していくと長くなってしまいますので、順を追ってお話ししていきます。
デザインのテクニックで言えば恐らくは私はずいぶん古くなってしまって、今の若い方の方が知識は豊富かと思いますので、今回は敢えて触れず、制作に入るまでの準備までをお伝えします。
あくまでも私個人の経験と考え方であるということは先にお伝えしておきますね。

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チラシを制作するにあたっての流れはざっくりと以下のようになります。

① 打ち合わせ
② 情報を集める
③ 脚本、プロットなどから、デザインコンセプトを立てる。
④ 表面メインビジュアルを作る
⑤ 裏面の情報面をレイアウトする(必ずしも表がビジュアル、裏面が情報、という訳ではありません)

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①打ち合わせ

公演を打つことが決まって、まず初めにやるのがどんな芝居にするか、の打ち合わせです。

劇団の代表、脚本家、演出家、制作スタッフ、プロデューサー・・・誰に決定権があり、誰の意向で芝居の方向性を決めるかはそのカンパニーによって違うと思いますし、それによってチラシのテイストも決まってきます。

私の場合は、劇団の代表・作・演出家の意向が反映されることが多く、

例えば最初の劇団の場合は、代表がデザイナー経験があったので、デザインメインで一緒に話を進めましたし、そのあとの劇団の代表は、デザインとかはまったくわからないから任せる、といった方でしたので、こちらでビジュアルイメージを提案し、OKをもらうといった進め方でした。

過去には、打ち合わせの段階で日程と出演者、主役が誰かまでは決まっているけど、タイトルも内容も決まっていない、でもチラシは急いで作らなくてはならない、という場合もありました。

その時は、決まっている主役の俳優をなんとなーく雰囲気の良い場所に連れていって撮影し、そこに文字を入れ、なんとなーくのデザインが出来上がりましたが、これはあまり良くないパターンだと思います(笑)

②情報を集める

・カンパニー名
・タイトル
・あらすじ
・日程
・会場(地図なども)
・作・演出
・出演者
・チケット料金
・スタッフ・協賛などのクレジット
・チケット購入方法
・カンパニー情報
・問い合わせ先

これらは必須です。これのどれかが揃っていない段階では、まだチラシを世には出すべきではないでしょう。
内容についての詳細は今回は割愛します。

③脚本、プロットなどから、デザインコンセプトを立てる。

その芝居がコメディなのか、シリアスなのか、原作ものなのか、和物か、洋物か・・・などでデザインは大きく変わります。チラシはダークでシックだけれど、幕を開けてみたらその内容はコテコテのコメディだった!という敢えて逆振りというやり方も昔はよく見ましたが、これはあまり効果がよくわからないと私は思っています。

あまり捻らず、伝わりやすいのが一番。

以前、サスペンスの芝居をやった際に、クオリティの高いビジュアルをアーティストさんにお願いしてとても素敵なチラシができたと思ったのですが、あまりにも怖すぎて、お子さんなど観にきたがらないお客さんが複数出た・・・ということがありました(笑)

かと言って、とても可愛くて持って帰りたくなるようなチラシを作っても、コレクションに収められるだけで、芝居自体には興味を持ってもらえないということもあります。

本来の目的はチラシを作ることではなく、この芝居観たい!とたくさんの人に思ってもらう事なのですが、これはなかなかにアタマを使うものです。

一番伝えたいこと(売りポイント)を考えます。

・作品内容(ex.この戯曲は超有名だからみんな見にきて!)
・演出家(ex.道外からすごい演出家が来るよ!)
・出演者(ex.この役者が出るから必見!)
・カンパニー色(ex.これだけの劇団員がいて今回は○周年だから、全員でコメディをやります!)

どれが一番なのか。

それによって

・全イラスト
・写真のみ(人物・風景 ・モチーフの物撮りなど)
・イラストと写真の組み合わせ

などと、デザインの方向性も変わります。

⬆︎教文子ども演劇ワークショップ発表公演 『夏の夜の夢子ちゃん♡』 イラスト/内海智美(murmur)

出演者に知名度のある方がいる場合などは、チラシを見ただけで「この人出るの?行きたい!」と、興味を持ってもらえることが多いと思いますので、イラストのみよりも写真を使う事を経験上お薦めしますが、イラストのチラシにこだわりを持っているといった場合はマストではありません。

ちなみにイラストの場合、そのイラストが素敵なものだと、それだけでもチラシ自体の価値は上がり、手に取る人は増えるので、イラストレーターの選択も大事です。

知名度のあるイラストレーター、漫画家さん、などにお願いするのも手です。
また、チラシは数ある多くのチラシとともに、ラックや棚に並べられることが多いので目立つことも重要です。
たくさんラックに並ぶと、チラシの上の方しか見えなくなってしまうこともあるのでタイトルなど伝えたい情報は上の方にレイアウトする、などが必要な場合もあります。ただ、デザインに制限をかけてしまうので、これもマストではありませんが。

視覚的に目立つ蛍光色を印刷に使ってみたり、サイズを極端に変えてみたりというのもあります。

が、チラシのサイズはあまり変形にしたり、小さくしすぎると、折り込みの際に落ちてしまったり、扱いにくいといった場合がありますので注意が必要です。

サイズで多いのはA4サイズ、映画のチラシで多いB5サイズも最近は増えていますね。
情報が多い場合や、ビジュアルを大きく見せたい場合はA3二つ折りで、広げるとポスターにも使えるデザインで、といった場合もあります。

⬆︎『12人の怒れる男 2014』デジタルコラージュ/クスミエリカ

紙についていろいろとお話ししていますが、デジタル化が進む昨今、デジタル画像や映像をSNSで出せばいいじゃないかと。紙のチラシはなくなっていくのでは。と囁かれることもありますが、やはり紙で作るチラシは良いものです。

視覚だけではなく、手触りや紙自体の魅力もあるものですから、ぜひお芝居をやるカンパニーの皆さんには、紙チラシも選択肢から外さないでほしいと思っています。

劇作品の『世界観』が伝わるとなお良い。

売りポイントやその企画自体の目的や目標が明確であればあるほど、伝わりやすいチラシができると思いますが、これからできるであろう芝居の世界観を、チラシを見る方に想像させ、ワクワクさせることも大切です。

脚本演出家とよく話し合い、世界観を共有し、自分の頭の中でもイメージすることは必要かと思います。それがないと、なんともちぐはぐなチラシになってしまうので、気をつけましょう。

⬆︎『劇のたまご』イラスト/コヤマトモコ

いろいろと余談が多くなってしまいました。
参考になりましたでしょうか。
具体的なチラシのデザインについてもいずれお話しできればと思います。

ではまた!